コラム, 日記

 北欧音楽に用いられている楽器の一つにマンドーラ、と呼ばれる楽器があるが非常に曖昧な部分の多い存在なので、自分の勉強も兼ねてここにまとめていこうと思う。
 動画はDreamers’ Circusでも有名な奏者Ale Carrによるマンドーラの演奏。彼はこの楽器をシターンと呼んでいる。

 mandola(マンドーラ)、Swedish mandola(スウェディッシュマンドーラ)、Nordic mandola(北欧マンドーラ)、cittern(シターン)はいずれも北欧音楽に使われる似た形状を持った楽器である。製作家が何と呼んでいるか次第で名前が変わるので著しく大きな違いは無いと思って構わない。
 逆に、様々なバリエーションが存在することにはなるが、少なくともリュート属の古楽器「マンドーラ mandora」(画像左)や、古楽器のシターン(画像右)とは名前こそ同じものの、この文脈においては別の楽器となる。
 マンドリン属の楽器「マンドラ mandola 」(画像下)も同じ綴りだがまた別物である。ややこしくて申し訳ない。
 ここでは北欧音楽に使われる楽器を指して単にマンドーラと呼称することにする。

 マンドーラの歴史は非常に新しい。

 というのも「誰がこういった楽器を作り、スウェーデン音楽に取り入れたのか」がはっきりしていて、それはスウェーデンのフォークバンドFrifotでも有名なあらゆる楽器を演奏するミュージシャン、Ale Möllerである。

 次の動画の彼率いるAle Möller Bandはギリシャ・セネガル・スウェーデンの音楽をミックスさせたバンドだ。彼は様々な音楽に興味を持って吸収している偉大なミュージシャンだが、ギリシャ音楽に傾倒している間、彼はギリシャの伝統楽器であるブズーキ(画像左)と出会った。グリークブズーキは複弦3コースを基本の形としている。ボディは洋梨を半分に割ったような形状だ。彼はこの楽器をスウェーデン音楽に取り入れようと、楽器製作家Christer Ådinと共同で80年代にマンドーラを開発した。このときには既にブズーキはアイルランドにも持ち込まれアイリッシュブズーキ(画像右)と呼ばれる裏板がフラットな4コースの楽器に形を変えている。マンドーラのボディの形状などは恐らくアイリッシュブズーキを参考にしただろう。

 マンドーラの基本的な構造は、アイリッシュブズーキと似た滴形でフラットバックのボディにナイロン弦の複弦5コース、チューニングは下からCGDAEとヴァイオリン(あるいはマンドリン)のオクターブ下かつ5弦目に低音のCを足したものになっている。
 低音弦2本はオクターブで張られていることが多い。加えて、ピンポイントカポタストという特定の開放弦の音程を変えるための器具をつけるための穴が空いている物もあり、それらを駆使しながらAAEAEやDADAE、DGDADなど様々なスタイルに合わせたチューニングで演奏される。
 次の動画の楽器は、4コース5コース目を3度下までドロップできるような構造になっている。
 オーダー次第では、微分音のフレットをつけてもらうこともできる。実はスウェーデン音楽でもしばしば微分音が登場する。フィドルがフォークミュージックの中心だったためであろう。だから、かどうかはさておき、スウェーデン音楽にギターやマンドリンなどの撥弦楽器が取り入れられたことすら実は比較的最近の出来事になる。それについては別の機会にお話しするとしよう。

マンドーラの製作家は何人かいるが
 Ale Carr(Dreamers’ Circus)
 Ale Möller (Frifot)
が使用しているChrister Ådin(公式サイト)。
 Roger Tallroth (Väsen)
 Lasse Sörlin (Nordman)
が使用しているOla Söderström(公式サイト)。
イギリスのStefan Sobel (公式サイト)などが挙げられる。

 今回は北欧音楽で使われる楽器、マンドーラについての簡単な解説をしてみた。
 日本語で解説しているページがあまり無かったので、少しでもお役に立てればと願う。
 それではまた次のコラムで。
 最後の動画はとりわけ素晴らしいマンドーラのソロである。

参考文献
https://silkwoodmusic.wordpress.com/2010/03/25/the-nordic-mandola-its-not-a-banjo/

コラム, 日記

 前回はスウェーデン音楽のデュオと言う物について考えたが今回はいわゆる「伴奏」と言う物について考えてみたいと思う。

 まずスウェーデンフォークバンドの金字塔である二つのバンドの演奏をご覧いただきたい。
 1つめのバンドはFrifot(フリーフォート)。フィドル2人の他にブズーキのような弦楽器を持った奏者(Ale Möller)がいるが、これはスウェディッシュマンドーラ(単にシターン、マンドーラ、ノルディックマンドーラとも) という複弦5コースの撥弦楽器で、現在では多くの奏者がスウェーデン音楽に使用しているがそもそもはこのバンドの彼がアイリッシュブズーキを元にスウェーデン音楽のための弦楽器として開発したものであり、導入は極めて最近の話である。

 2つめの動画はVäsen(ヴェーセン)。ニッケルハルパ、5弦ヴィオラ、12弦ギターという編成で疾走感あふれるフォークを聞かせてくれるバンドであるが、今スウェーデンで12弦ギターを弾いている人はほぼVäsenのギタリスト、Roger Tallrothの弟子と言っても過言ではないだろう。

 では、これらの伝統性とオリジナリティを非常に良い塩梅でミックスさせている二つのバンドを例にとって話をしよう。

 スウェーデンのフォーク音楽は他の多くの国でもそうであるように、元々はフォークダンスの伴奏として発展を遂げてきて、今でもその役割を担い続けている。それはかつては口琴のようなものから始まり、笛、アコーディオン…フィドルが輸入されてからはフィドルが中心となり、特定の地域でのみニッケルハルパが弾かれていたがいずれにしてもダンスを踊るための曲であり楽器であった。
 伴奏は複数人ですることももちろんあるものの、一人でも十分にこなすことができる。3つめの動画がその例。このように、フォークダンスにおいて伴奏楽器は欠かせないものであった。
 その後、フィドルにしてもニッケルハルパにしても、ダンスの伴奏曲から音楽だけで鑑賞する曲が登場する。ニッケルハルパで言えばByss-Calleなどがそういった曲を残したその時代の代表であろう。

 さて、通常、音楽において「伴奏」というとメロディに対してリズムや和音を鳴らす物になる。この文章においても語りたいのはその意味での「伴奏」なのであるが、前述の通りスウェーデンのフォーク音楽において長い間、その「メロディ」自体が伴奏であった。つまり何が言いたいかというと、普通のバンドはメロディの楽器がいて、他にギターやベースやドラムがいたとき、リズムの所在地はそのようなメロディ以外の楽器になることが多いが、スウェーデン音楽においてはリズムの所在地があくまでもメロディ楽器…動画で言うところのフィドルでありニッケルハルパなのである。
 つまりギターやパーカッションがことさらリズムを強調する必要がないということになる。彼らがその制約から解き放たれたとき初めて、本当の意味で多種多様なアプローチが生まれることになるのではないだろうか。その世界ではもちろんリズムを刻んでも良いし、あるいはメロディを弾いても良い。
 4つめの動画はニッケルハルパとギター(あるいはベース)、パーカッションという編成のバンドFatang(ファタング)であるが、これほど軽やかでメロディのリズムを意識して合わせているパーカッションは他のジャンルではなかなか聴くことがないだろう。
 「伴奏」は英語で「Accompaniment」である。accompanyの原義は「同行する、ついていく」であるように、バッキングという役割に囚われずもっとメロディに寄り添ったギターやドラムがいても良いのではないか、という新たな知見のきっかけにスウェーデン音楽がなるならば、きっとあなたの演奏の幅はさらに広がることだろう。

コラム, 日記

 この文章を書いているスタッフは元々オーケストラでコントラバスを弾いていた人間で、紆余曲折あり民族音楽、中でもとりわけスウェーデン音楽にたどり着いたのだが、スウェーデン音楽に出会うまで10年程度やってきた音楽というものへの見方が大きく変わるきっかけの一つとなった「スウェーデン音楽におけるデュオ」について少し語らせてほしい。
 
 音楽にはインストの音楽に限ってもソロからオーケストラまで様々な形態があるが、それぞれに良さがあるとは思う。しかし、例えばソロではピアノやギターで無ければ鳴らせる和音は限られているし、もちろんピアノやギターにも制限はある。ただ単に同時にたくさんの音が鳴っていることが良いというわけではないが、主旋律があり対旋律があり、複数の声部が折り重なるようなクラシック音楽の面白さに惹かれてしまうと最低でも3声は欲しいと思ってしまうようにはなってしまっていた。特にメロディ楽器+伴奏楽器という2声は「必要最低限」という認識をしてしまい、そこにもう一つ楽器を加えたくなってしまう。2声で面白いと言えばそれこそバッハがやっていたようなポリフォニー音楽に面白さを見出し、アイリッシュでも4~5人のバンドを好んで聴いていた。
 
 そんなとき出会ったのがスウェーデンの音楽で、ニッケルハルパとギターで伝統音楽を演奏しているものだった。他のジャンルではギターはいわゆるバッキングに回ることが多いわけだが、その音源ではギターはもはや旋律楽器で、ニッケルハルパのメロディとユニゾンしたりハモったり、かたやコードを鳴らして裏に回ったり、それらがシームレスに移り変わる半ばポリフォニックな演奏は「役割」というものに全くとらわれていなかった。これはニッケルハルパのデュオやフィドルのデュオでもそうで、二つの楽器が溶け合って一つの音となり聞こえてくる。そのとき、メロディとハモりとか、表と裏とか、そういう聞こえ方ではなく本当に一つの音になるのでここに他の楽器を足そうと思うことはなく、「必要最低限」だと思っていた編成が「完成形」であることを思い知った。
 
 これはスウェーデンの演奏家ならではの光景かもしれないが、デュオのときほどお互いの顔を見合って演奏する。実際に仲が良いことも多いがそれはさておき、相手が次に何をしようとしているのかを音楽で会話するようにコミュニケーションで確かめながら、相手の音に即座に対応してその場その場の音楽を作り出す。有名なニッケルハルパ奏者が「毎回インプロビゼーションだよ」と語っていたがこれはまさにそうで、周りの音への適応力に関してスウェーデンのフォークミュージシャンはジャズミミュージシャン並みに高いと思っているし、どこまでが決め打ちでどこからがアドリブなのか見当もつかない音楽を聴かせてくれる。
 
 何かおすすめを聴きたいというお客様の最初のCDにはついバンド形式のものや3人程度で聴きやすい物をおすすめしてしまいがちだが(それも良いCDなので全く構わないのだが)、そういう「呼吸」を感じられるCDもまたおすすめなので、興味のある方はぜひスタッフまで。