【おすすめCD紹介】TÖST! / Harv ニッケルハルパ奏者峰村茜さんレビュー

 CDのジャケットは、体格のいい女性がフラフープをまわしている姿だし、CD本体をとったところで見えてくるのは、誰かの入れ歯(コップに入っている)。ライナーノーツを開いてみれば、若者達がやたらとお酒を飲んでいる写真ばかりが目について、「このCD、大丈夫なんだろうか?」と思いながら再生してみる。と、聞こえてくるのは、私の予想を裏切るような、爽やかで、耳心地のいい音楽。「あ、大丈夫だ、安心できる」。 
――というのが、このCDを聞いた私の第一印象です。 
 
 収録曲の中には伝統曲もありますが、ほとんどの楽曲がフィドルのマグヌス・スティンネルボムによって、演劇用に作曲されたもののようです。私がマグヌスを初めて知ったのは、ヴェーセン(というトリオ、Väsen)の30周年記念コンサートで、マグヌスが「ヴェーセンにとってとても大切な人」の1人として紹介され、ヴェーセンとともに演奏している姿を動画で見たことから。その時にはなんとなく、「演劇関係で演奏や作曲をしている、ヴェルムランド地方の演奏家らしい」というぼんやりとした認識を持ったにすぎませんでしたが、こうしてCDを聞いてみると、あらためて伝統曲のリズムが肌に染み込んでいる演奏家だと感じるし、そういう人が作って演奏している現代曲だからこその、爽やかだけどゴツさと粘りのある雰囲気というものを、バンドやCD全体から感じます。 
 
 調べてみると、マグヌスの父親はグロウパ(というバンド、Groupa)の元メンバーであり、マグヌス自身は生まれた時からフォーク・ミュージックに親しんでいたとのこと。しかしながら、もう1人のフィドルのダニエルともに、10代前半は2人ともロック音楽に夢中だったそうです(楽器も、パーカッションやエレキギターをやっていた)。15歳の頃に再びフォーク・ミュージックへと戻ってきたマグヌスは、ダニエルとともにデュオを組み、そこに更にギターのペーテルとパーカッションのクリスティアンが加わることで、カルテットとなりました。 
楽曲としては、全体的に現代的でオープンなとっつきやすい雰囲気がある一方で、演奏にはフォーク・ミュージックらしい力強さと地に足のついた音運び、テンポ感が感じられます。カラッとした曲も幽玄な雰囲気の曲も、劇中曲として作られたからこその物語性に富んでいます。 
 
 アルバム名であり収録曲1曲目の「Töst!」は「Tyst!(静かに!)」の方言だそうです。リスナーに向かって「静かに!」と言っているのか、演奏家が「静かに!」と言われても演奏をやめないさまを表しているのか、それとも頭の中の鳴りやまない音楽に「もうやめてくれ」と冗談まじりに言っているのか。想像は膨らみますが、CD裏の入れ歯のように、私も黙って音楽に耳をすませようと思います。 
 
参照したサイトのリンク 
Drone Music ABHarv(スウェーデン語) 
 
Drone Music AB – Harv(英語) 
 
Wikipedia Harv 
 
Wikipedia Daniel Sandén-Warg 

Posted by resono-sound