ニッケルハルパの種類

2020年9月23日

一口にニッケルハルパと言えども実は様々な種類があります。
ちょっとマニアックな話にはなりますが歴史に登場した時系列順に紹介していきたいと思います。
photo by Vicki Swan

Gammalharpa (古いハルパ)

Viola a chiavi

 上の写真の一番左、最も小ぶりなもの。これはイタリア・シエナで1408年に描かれたとされているフラスコ画を元に作られたレプリカになります。
 同様の絵がイタリア・ドイツ・スウェーデンの教会に残されているため、このような楽器が当時存在していてそれを描いたのか、天使の持つ不思議な楽器として使われがちなモチーフだったのかは定かではありません。少なくとも現存する楽器は無いのが現実です。
 鍵盤はダイアトニックで1列。演奏弦と思われるものが4本張ってあるように見られます。
Introducing the Moraharpa

Moraharpa (ムーラハルパ)

 その隣はスウェーデンのMora(ムーラ)という町で発掘されたことからMoraharpaと呼ばれている楽器。こちらもレプリカになります。発掘された楽器には”1526”と刻まれているものの、実際にその時代に作られて使われていたかどうかは分からない上、その可能性は低いだろうと言われています。この楽器がニッケルハルパの直接の祖先である、という考えられていた時代もありましたが、研究者(Per-Ulf Allmo)の最新の意見によるとこの楽器はこの楽器として生まれこの楽器として完結したもので、現代のニッケルハルパへと至る過程で登場したものではない、とのことです。
 スウェーデンのZorn Museumに現存するものが展示されています。
 チューニングはおそらく決まったものは無いと思われますが、動画では上からD4(ヴァイオリンの3弦)、D3(チェロの2弦)、G3(ヴァイオリンの4弦)となっています。
 鍵盤はダイアトニックで1列。1本のメロディ弦と2本のドローン弦を持っています。
 今後も登場するので今のうちに説明しておくと、このページでは弓で擦る弦のうち鍵盤がついているものをメロディ弦、鍵盤が無く同じ音しか出せない者をドローン弦、弓の触れない弦を共鳴弦と呼んでいます。

kontrabasharpa (コントラバスハルパ)

 さらにその隣はコントラバスハルパと呼ばれる楽器で、現代のニッケルハルパの現存する最も古いルーツと考えられています。いつ生まれたかは定かではありませんが、少なくとも1700年代の楽器が遺っているのは事実です。
 特徴的なことは1本のドローン弦を挟む形でメロディ弦が配置されていること。それから、一つの鍵盤に二つのタンジェント(音程を変えるための木片)が付いているということです。このドローン弦(bas)に対して弦とタンジェントが「一対」をなしているという意味を表すのがKontraという言葉で、特に音域のコントラバスとは関係ありません。
 チューニングはバリエーションがあり、メロディ弦の高い方をA4(ヴァイオリンの2弦)、低い方をD4、ドローン弦をG3としたり(DGA)、高い方をドローン弦とオクターブにしたり(DGG)、さらに全ての弦を落としたり(CGG,CFF)、弾く曲によってまちまちです。
 鍵盤はダイアトニックで1列。2本のメロディ弦と1本のドローン弦、6本程度の共鳴弦を持っています。
Silverbasharpa - Vals efter Gulamålaviten

Silverbasharpa (シルベルバスハルパ)

 中央にいるのはシルベルバスハルパと呼ばれる楽器で、コントラバスハルパのドローン弦がガット弦からガットをシルバーで巻いたものに変わったことからそう名付けられました。より明瞭な音色を獲得したシルベルバスハルパの噂は1800年台には広まっていたとされています。他の構造的な部分はコントラバスハルパと共通しています。
 シルベルバスハルパの登場の後、しばらくは人気だったとされていますが、次第にアコーディオンなどの需要が高まり徐々に衰退の一途をたどりました。
 鍵盤は完全なクロマチックではなく、C,F,G,Dなどのキーを得意としていました。
 コントラバスハルパ、シルベルバスハルパともに現代でも愛されていて一定数の演奏家がいます。
Kontrabasharpa med dubbellek med en bit från Delsbo

Kontrabasharpa med dubbellek (コントラバスハルパ メッド デュッベルレーク)

 写真にはないですが、歴史的に存在していた楽器の一つです。med dubbellekとはwith double row、すなわち2列の鍵盤を意味します。
 シルベルバスの登場後、特定の曲を弾く際に2番目のメロディ弦がCだと弾きづらいことから開発された楽器です。今まで中央に配置されていたドローン弦が奏者から見て手前に置かれるようになりました。
 2列目の鍵盤は2番目のメロディ弦の音程を変えます。(くぐってるタンジェントがそれです)。1列目の鍵盤は1番目のメロディ弦の音程を変えるとともに、ドローン弦にも干渉する2つめのタンジェントを持っているため、場合によってドローン音を変える機能を持ちコントラバスハルパの定番曲を弾くことも、ドローン音を操作できる最新のシルベルバスハルパとして新しい曲を演奏することもできる画期的な楽器だった、らしいのですが現在演奏している人はごくわずかです。
 鍵盤はダイアトニックで2列。2本のメロディ弦と1本のドローン弦、6本程度の共鳴弦を持っています。

Modern nyckelharpa (現代のニッケルハルパ)

The teacher's concert: Magnus Holmström "Hem från Gesunda" by Eric Sahlström

Treradig kromatisk nyckelharpa (トレラディグ クロマティスク ニッケルハルパ)

 3列の鍵盤を持つクロマチック(半音階)のニッケルハルパで、今多くのスウェーデン人が弾いているのはこのタイプになります。レソノサウンドで体験できるのもこちらです。
 Gammalharpa(ガンマルハルパ)との違いは演奏弦が3本に増えたこと、鍵盤がクロマチックになったこと、共鳴弦が12本になったことが挙げられます。そして技術を持った演奏家によってテクニカルな曲が数多く作られることとなります。この楽器は1926年にAugust Bohlin(アウグスト・ボーリン)が完成させたとされています。また、製作家・演奏家・作曲家として活躍したEric Sahlström(エリック・サールストレム)も普及に大きく貢献しました。ニッケルハルパは古楽器だと思われがちなのですが、一旦完全に衰退しかけた後、復興運動によって持ち直した歴史を持っています。したがって、このモダンニッケルハルパは実のところ極めて近代の楽器なのです。
 伝統的なチューニングは下からC3,G3,C4,A4です。
 鍵盤はクロマチックで3列。3本のメロディ弦と1本のドローン弦、12本の共鳴弦を持っています。

Begåvningsmarschen in Fminor on 4-rows nyckelharpa (low)

Fyrradig kromatisk nyckelharpa (フィーラディグ クロマティスク ニッケルハルパ)

 4列の鍵盤を持つクロマチック(半音階)のニッケルハルパということで、ガンマルハルパの名残だったドローン弦にも鍵盤をつけてメロディ弦にしてしまおうというコンセプトのもと開発されました。音域が広がり機能的に改良とも言えるはずですがスウェーデン国内では全く人気にならず、スウェーデンのニッケルハルパ奏者のうちこのタイプのニッケルハルパを使用しているのは5%程度と言われています。
 ただ、ヨーロッパでは非常に人気があり、イタリア、フランス、ドイツなどの奏者がこぞってこのタイプのニッケルハルパを用いてクラシック音楽を演奏しています。
 チューニングは下からC3,G3,C4,A4ですが2弦のCをDに上げ、下からCGDAという五度調弦にして演奏することがあります。これはフィドル奏者の人が同じ感覚で演奏できることからFiolharpa(フィオールハルパ)と呼ばれることもあります。(チューニングが変わったというだけで楽器そのものは同じです)
 鍵盤はクロマチックで4列。4本のメロディ弦と12本の共鳴弦を持っています。

Oktavharpa (オクターブハルパ)

 3列のニッケルハルパをそのまま1オクターブ下にチューニングした楽器です。(動画は4列目にもキーがついていますね)最低音はチェロの最低音と同じになり、音域、音色ともにチェロっぽい楽器です。アンサンブルで活躍する楽器ではありますが、いかんせんサイズが大きいため立って演奏するのが困難です。
 チューニングは下からC2,G2,C3,A3です。
 鍵盤はクロマチックで3列。3本のメロディ弦と1本のドローン弦、12本の共鳴弦を持っています。
 また、通常のニッケルハルパより5度低い調弦でちょうどオクターブハルパとの中間に位置するTenorharpa(テノールハルパ)という楽器も存在します。日本にも何台かあるはず。
 なおoktavやtenorのハルパがいる文脈ではTreradig kromatisk nyckelharpa、いわゆる「普通のニッケルハルパ」をsopranoharpaと呼ぶことがあります。

Posted by resono-sound