ギターはADADAD?北欧の変則チューニングとRoger Tallrothの存在
2021年1月23日
2020年11月2日、スウェーデンフォークバンドの金字塔 Väsen からギターのRoger Tallrothが脱退することが発表された。
彼らが1989年に発足してから2020年11月までの約30年間、スウェーデンのフォーク音楽シーンを牽引してきたことは間違いなく、スウェーデン国外へのツアーを続けてきた彼らのファンは世界中にいることだろう。(来日公演もしている。そちらの裏話などは15年にわたり彼らのツアーをコーディネートしてきたTHE MUSIC PLANT野崎洋子さんのブログをご覧いただきたい)
その中でもRoger(ローゲル)はそのオリジナリティから世界中のギタリストの中でも一目置かれる存在となっている。
今回は日本のギタリストの方々に向けて、ローゲルの演奏スタイルを音楽的に掘り下げてみたい。
12弦ギターと変則チューニング
ローゲルはギターのみならず様々な楽器を演奏するが、Väsenでの活動において中心となっていたのは12弦のアコースティックギターである。
Martinの12弦やスウェーデンの製作家、Nordwall Instrumentのものなどいくつか使用しているがこのギター、ただの複弦というわけでは無い。
というのもチューニングは下からADADAD、しかも下4本はオクターブ調弦(1オクターブ上の弦が張ってある)となっている。
通常のギターのチューニングは主にEADGBEであるがこのAの1オクターブ下のAが最低音となる。これは実音でへ音記号の下の加線3本目のA、つまりエレキベースの3弦と同等であるし、チェロの最低音の3度下となる。かなりの低音だ。
ローゲルがギターを持ってから(元々はフィドルを弾いていたらしい)、スウェーデンのフォークを弾くのにふさわしいチューニングや演奏法を探した結果たどり着いたのがこのチューニングだという。
言わずもがな、開放弦だけを鳴らしたときは1度、4度、5度、8度という完全音程しか出てこない。スウェーデンのフォークはフィドルが中心であることから純正律的な響きに重きが置かれているように感じる。そういう意味では理に適っているのかもしれない。(無論、フレットがあるので押さえた音に関しては純正律にはならないのだが)
もちろん、メリットもあればデメリットもある。このチューニングでいわゆるポップスを弾こうと思うと多分、出せないコード・出しにくいコードに多々出くわすだろう。
ただ、ストロークの時の「ベース音+高音弦のドローン音」の響きは、このチューニングでしか出せない独特の雰囲気がある。
端的に言えば、北欧の音である。
北欧の音が出せるチューニングをローゲルが見つけたのか、ローゲルがこのチューニングで弾き続けてきたから北欧の音に感じるのか、もはやそれすらわからないくらいに彼の影響と功績は大きい。
彼を慕うファンが名付けて以来、ADADADチューニングは「Tallroth Tuning」とも呼ばれる。
プレイスタイルと彼の影響
ローゲルは優れたギタリストであると同時に優れたベーシストでもあると思っている。彼の作るベースラインは本当に見事だ。
それでいてメロディにユニゾンするときは擦弦楽器とニュアンスを揃えるし、ハモりの動きから独立した動き、リズムを出すバッキング的な動きと、それらを1曲の中でシームレスに使い分ける。縦横無尽である。Väsenでは5弦ヴィオラのMikael Marinが特に縦横無尽に駆け回る印象が強いが(実際一番アドリブが多いのは彼という)、それを支えつつ曲の表情を出すローゲルの緩急の付け方はギタリストにはなかなか無いレベルだと思っている。
彼はメロディ担当でありリズムセクションでありハーモナイズ担当でありベーシストなのだと、私は受け取っている。
彼はストックホルムの王立音楽大学などで教鞭を執ってきた。したがってスウェーデンのフォークギタリストの多くは彼の弟子であると言っても過言ではないほどである。
それくらい、ADADADチューニングで12弦ギターを弾くプレイヤーはスウェーデン国内に多い。他の国では、思いもよらないセッティングにも関わらず、だ。
Storis Limpan BandのLimpanは彼の弟子と公言しているし、日本では唯一、DrakskipやJangraviと言ったユニットで活動している浦川裕介さんがそのセッティングで演奏している。
使用している弦(ギタリスト向け)
ギターを演奏する方は気になっていることだろう、ローゲルのセッティング。
恐らく1パターンではないものの、代表的な例を以下に挙げる。
特徴的なのは低音弦についてはナイロン弦と金属弦をミックスさせていることだろうか。
D: 012p / 012p unison
A: 016p / 016p unison
D: 030w / 012p octave
A: 039w / 016p octave
D: 7n HT / 030w octave
A: 10n HT / 039w octave
p=plain
w=wound
n=nylon
HT= hard tensionAll steelstrings are Elexir Nanoweb, all nylonstrings are Hannabach.
最後に
今回はスウェーデンの名ギタリスト、Roger Tallrothとその特殊なチューニングについて紹介をしてきたがいかがだっただろうか。
彼がヴェーセンから離れることを惜しむ声は多いが彼のこれからの活躍を期待するのがファンとしてできる最大限の応援だろう。
そして、12弦ギターにトライしてみるのも良いだろう。
もしかしたらVäsenに加入できる可能性がごくわずかに存在するのだから――
Posted by resono-sound
関連記事
7月ニッケルハルパ教室平日枠のお知らせ
ニッケルハルパに初めて触って体験してみたい!という方に向けた体験レッスンと、少し ...
6月ニッケルハルパ教室日曜枠のお知らせ
日本ではまだまだ珍しい民俗楽器、ニッケルハルパを体験できる教室のお知らせです!月 ...
北欧笛ワークショップ&ミニライブ開催!
12月より織田優子先生の北欧笛教室が開講することを記念して、ミニライブ付きのワー ...
夏を楽しむ北欧・ケルトCD5選!
オリンピックの傍ら、新型コロナウイルスの感染爆発によって流石に外出を控えている方 ...
北欧フィドル教室生徒さんの声【クラシックからの転向 櫛谷結実枝さん】
今回は当店で野間友貴さんが月1で開講しているスウェディッシュフィオール(北欧フィ ...