スウェーデン音楽の伴奏という物について考える

2020年11月21日

 前回はスウェーデン音楽のデュオと言う物について考えたが今回はいわゆる「伴奏」と言う物について考えてみたいと思う。

 まずスウェーデンフォークバンドの金字塔である二つのバンドの演奏をご覧いただきたい。
 1つめのバンドはFrifot(フリーフォート)。フィドル2人の他にブズーキのような弦楽器を持った奏者(Ale Möller)がいるが、これはスウェディッシュマンドーラ(単にシターン、マンドーラ、ノルディックマンドーラとも) という複弦5コースの撥弦楽器で、現在では多くの奏者がスウェーデン音楽に使用しているがそもそもはこのバンドの彼がアイリッシュブズーキを元にスウェーデン音楽のための弦楽器として開発したものであり、導入は極めて最近の話である。

 2つめの動画はVäsen(ヴェーセン)。ニッケルハルパ、5弦ヴィオラ、12弦ギターという編成で疾走感あふれるフォークを聞かせてくれるバンドであるが、今スウェーデンで12弦ギターを弾いている人はほぼVäsenのギタリスト、Roger Tallrothの弟子と言っても過言ではないだろう。

 では、これらの伝統性とオリジナリティを非常に良い塩梅でミックスさせている二つのバンドを例にとって話をしよう。

 スウェーデンのフォーク音楽は他の多くの国でもそうであるように、元々はフォークダンスの伴奏として発展を遂げてきて、今でもその役割を担い続けている。それはかつては口琴のようなものから始まり、笛、アコーディオン…フィドルが輸入されてからはフィドルが中心となり、特定の地域でのみニッケルハルパが弾かれていたがいずれにしてもダンスを踊るための曲であり楽器であった。
 伴奏は複数人ですることももちろんあるものの、一人でも十分にこなすことができる。3つめの動画がその例。このように、フォークダンスにおいて伴奏楽器は欠かせないものであった。
 その後、フィドルにしてもニッケルハルパにしても、ダンスの伴奏曲から音楽だけで鑑賞する曲が登場する。ニッケルハルパで言えばByss-Calleなどがそういった曲を残したその時代の代表であろう。

 さて、通常、音楽において「伴奏」というとメロディに対してリズムや和音を鳴らす物になる。この文章においても語りたいのはその意味での「伴奏」なのであるが、前述の通りスウェーデンのフォーク音楽において長い間、その「メロディ」自体が伴奏であった。つまり何が言いたいかというと、普通のバンドはメロディの楽器がいて、他にギターやベースやドラムがいたとき、リズムの所在地はそのようなメロディ以外の楽器になることが多いが、スウェーデン音楽においてはリズムの所在地があくまでもメロディ楽器…動画で言うところのフィドルでありニッケルハルパなのである。
 つまりギターやパーカッションがことさらリズムを強調する必要がないということになる。彼らがその制約から解き放たれたとき初めて、本当の意味で多種多様なアプローチが生まれることになるのではないだろうか。その世界ではもちろんリズムを刻んでも良いし、あるいはメロディを弾いても良い。
 4つめの動画はニッケルハルパとギター(あるいはベース)、パーカッションという編成のバンドFatang(ファタング)であるが、これほど軽やかでメロディのリズムを意識して合わせているパーカッションは他のジャンルではなかなか聴くことがないだろう。
 「伴奏」は英語で「Accompaniment」である。accompanyの原義は「同行する、ついていく」であるように、バッキングという役割に囚われずもっとメロディに寄り添ったギターやドラムがいても良いのではないか、という新たな知見のきっかけにスウェーデン音楽がなるならば、きっとあなたの演奏の幅はさらに広がることだろう。

Posted by resono-sound